コラムCOLUMN

はじめに

『正常眼圧緑内障(NTG)』という病名は初耳だという方が世の中には多いと思います。失明第1位の緑内障のなかで最も罹患者が多く、世界中の眼科医と患者さんが困っている病気です。がんにも胃がんや肺がんといった種類があるように、緑内障にもさまざまな種類があります。当院は緑内障のなかでも、NTGに特化している専門クリニックです。例えるなら、がん治療専門病院ではなく、胃がん治療専門病院というようなイメージです。

このNTGは、日本人の緑内障の約7割を占める緑内障です。残りの3割は眼圧が高くなる高眼圧緑内障で、薬や手術によって眼圧を下げることで病状が安定します。ところがNTGは病名の通り、眼圧が正常なのに視神経が死んでいく厄介な緑内障です。標準治療は唯一「眼圧下降」のみです。眼圧が正常なNTGに対して眼圧をより下げる治療を施しても病状がどんどんと進行するため、眼科医は成す術がありません。

NTGは全身に何らかの慢性炎症性基礎疾患(歯周病・腸炎・糖尿病・肥満など)によって神経毒(異常タンパク質)が生成され、神経細胞が死滅していく病気です。「眼圧を下げれば良い」という単純な眼科疾患ではなかったのです。網膜⇒視神経⇒脳の後頭葉までの視覚路全般の病気なのです。そこで私は、非眼圧依存性リスクを多数抱える『複合型危険因子症候群』としてNTGをとらえて治療をすることにしました。

治療にあたっては、NTGの発症病理学的メカニズムを分子レベルで解明し理解する必要がありました。例えば、慢性炎症性疾患の細胞では、インスリン抵抗性(神経細胞を再生するインスリンが効きにくい状態)と、ミトコンドリア障害(細胞のエネルギー生産工場の故障)が起こっています。こういったことをNTG治療に落とし込んで患者さんに提供していくために、さまざまな分野で研究をされている諸先生方の論文を読み漁りました。そしてNTG治療に対する独自の理論が出来上がり、その理論をもとに治療を始めて3年近く経ちます。

3年近くで1,300人ほどの患者さんにNTG治療を行ない、一定の効果(視力・視野の改善)を認める多くの症例を経験してきました。その臨床経験の中で患者さんに気づかされたことがたくさんあります。そこでこのブログを通して、NTG治療の参考にさせていただいた論文などを皆さんにご紹介しながら、私自身がいま一度、NTGという病気を復習することで、新たな治療方法や画期的な治療方法が見つけ出せないだろうかと思い、このブログページを設けました。〝木を見て森を見ず〟という言葉があります。改めてまた森を眺めてみようと思います。

コラム一覧に戻る